アロマセラピー資料館
アブソリュート その性質と作り方
多くの花は繊細なため、水蒸気蒸留は芳香オイルの抽出に使えません。高圧下で熱すると花は壊れて小さな塊となってしまい、水蒸気が通過することができません。蒸気が花の間を通過できなければ、オイルを抽出することは不可能です。もし特別な装置で水蒸気が通過できるようにしたとしても、蒸気を発生させるのに必要な高温は、抽出されるオイルの芳香に悪い影響を与えることが多々あります。そのため、ネロリやローズオットーといったわずかな例外はありますが、通常、水蒸気蒸留法では花の香りをそのまま取り出すことができず、もとの植物の香りとまったく異なるオイルになってしまいます。これは理想的な状態とはいえません。
この問題に対処するため、繊細な花を傷めず、水蒸気蒸留の場合よりはるかに花そのものの香りを取り出す特別な方法が開発されました。さらに、この方法は熱や水をいっさい使わないため、水蒸気蒸留法では失われてしまう水溶性の芳香成分が失われることもありません。つまりアブソリュートでは、水蒸気蒸留法による抽出より、原料植物から高い率で成分を取り出すことになります。
この方法で抽出された芳香オイルは、”エッセンシャルオイル”ではなく”アブソリュート”と呼ばれることが多く、香りは水蒸気蒸留法や低温圧搾法によるものよりはるかに濃縮されています。
アブソリュートの抽出法
まず、原料植物は有機溶剤（通常ヘキサンやトルネン）とともに管状のドラム缶に入れられます。ドラム缶を回して、溶剤の吸収作用を助け、芳香抽出物を分離します。次にこの抽出物は真空蒸留にかけられ、溶剤を取り去ります。取り去った溶剤は再利用できます。この第一段階で抽出される芳香物は、コンクリートまたはレジノイドと呼ばれます。ワックスならコンクリート、樹脂ならレジノイドです。
コンクリートとレジノイドは多くの産業で使われますが、濃厚で粘着質なため取扱いが難しく、使うのには専門的な知識が必要です。だからコンクリートやレジノイドはめったにアロマセラピーに使われません。
次の工程は、エタノール（アルコール）を使い、花やハーブからの抽出物に現れるワックスや色素から芳香成分を分離します。ワックスなどは芳香物としての価値はほとんどなく、不溶性のためオイルを使いにくいものにしてしまいます。（ワックスはスキンケア製品に使われることはあります。）冷却するとワックスと香りのない物質は分離されて取り去られ、残りをろ過し、最後にアルコールが真空蒸留で回収されます。
自然に近い香り
巧みに抽出されると、アブソリュートは、水蒸気蒸留によるものよりはるかに、そのままの花の芳香を含み、より自然の植物に近い香りがします。そのため、バジル、カルダモン、クラリセージ、クローブバド、ゼラニウム、ラベンダー、ペパーミントなど、多くのハーブやスパイスがこの方法で抽出され、業種によってはこちらを好んで選ぶ製造者が多いものもあります。
ほかにアロマセラピーで使われる花や葉のアブソリュートの例としては、チャンパ（チャンパカ）、ジャスミン、ミモザ、オレンジフラワー（ネロリ）、チューベローズ、バイオレットリーフ、イランイランがあります。もしまだこれらの香りになじみがないなら、そんなに香りが良いならなぜもっと見聞きすることがなかったのだろうと疑問に思うでしょう。この疑問にはシンプルな答えがあります。
誤った情報
残念ながら、本やインターネットで繰り返し古い誤った情報が伝えられるため、アブソリュートにはアロマセラピーの世界で悪い評判があります。アブソリュートには溶剤とアルコールの残留物が、アロマセラピーの使用には受け入れがたいほど残っているのではないかという懸念です。しかしこの問題は、溶剤抽出法の技術がまだ稚拙で、品質基準が著しく低かった１９５０年代後半の話です。この問題はSteffan Arctanderのような当時の専門家に指摘されました（１９６１年のPerfume and Flavour Materials of Natural Origin）。
オイルの抽出について言えば、１９５０年代の世界は今とは全く違います。”品質”や”純度”の概念も、職業倫理に目覚めた現在は同じではありません。当時は、ベンゼンがアブソリュートの溶剤として、またほかの多くのことにも使われていましたが、現在は発がん性物質として使用は厳しく制限されています。現在安全な溶剤を使って正しい方法で製造されれば、アブソリュートに残る残留物は百万分の１０程度です。それが適正に希釈（１％）されればさらにごくわずかとなります。
おそらく製造業者の製造管理基準が悪ければ、容認しがたい高レベルな残留物が残るという意見もあるでしょう。しかし注目すべきは、多くのアブソリュートは食品のフレーバーとして認可されており、その基準はFDA、EEC,WHOの規制期間に厳しく監督されていることです。いずれにせよ、溶剤はとても高価なものであり、製造業者は再使用するために最後の一滴まで回収しようと努力します。だから製造業者には製品の中に残留物を残すインセンティブはまったくありません。もちろん、ガスクロマトグラフィー分析も望ましくない残留物を見つけるのに役立つでしょう。
比率の問題
また、アブソリュートのアロマセラピー使用を避ける理由として、アルコールの残留を指摘する人もいるでしょう。しかしここでは比率を考慮すべきです。多くのスキンケア化粧品がアルコールを含んでおり、含有比率もずっと高い水準です。この問題について考えるにあたり、常識的な見方が取り入れられるべきでしょう。一般的に、食品産業に対する規制は化粧品に対するものよりずっと厳しいものです。アブソリュートが食品添加物として認められているなら、よい品質のものであれば肌につけても完全に安全だということです。
アブソリュートは花の香りをそのまま取り出すすぐれた方法です。誤った情報によりその恩恵を享受できないのは残念なことです。溶剤を使わずにエッセンシャルオイルを抽出するほかの方法もありますが、そのための特別な装置の費用はずっと高価で、製品（オイル）の価格もずっと高いものになります。
それらの抽出方法のコストが下がり始めるまで、花の精油に関していえば、アブソリュートほどアロマセラピーの愛好家に価値あるものはないでしょう。いつまでも繰り返し使われる古い情報のために、アブソリュートのすぐれたセラピー効果を取り入れないことはやめましょう。
＜アブソリュート・ミニ知識＞
●アブソリュートはエッセンシャルオイルよりずっと濃縮されているので、ごくわずかな量で充分です。実際、エッセンシャルオイルの半分以下でいいので、アブソリュートは使用量で測れば印象よりずっと安価です。マッサージのブレンドでもほんの１、２滴でセラピー効果を得ることができます。また保存期間もエッセンシャルオイルより長く、４〜５年良い状態が保たれます。
●ローズAｂｓ.の原料となるキャベッジローズ。学名 Rosa centifoliaは「１００枚の花びらがあるバラ」という意味。驚くべきことに、そして植物の学名centifoliaの名の通り、この強い芳香を持つピンクレッドのローズの花は、１００枚以上の密集した花弁があり、全体として小さなキャベツ（キャベッジ）の形をしています。 貴重で不安定なオイルが拡散し始めないうちに、花はすばやく蒸留者のもとに運ばれます。コンクリートからのアルコール抽出によりつくられる赤茶色のアブソリュートは、濃厚で甘いフローラルな香りをもち、拡散しながら長く香りが続きます。
●アブソリュートは非常に濃縮されているので、慣れていない鼻には強すぎます。そのため希釈が必要で、そうすると、再び抽出前の花やハーブのような香りになります。はじめてアブソリュートの香りを嗅ぐと、ほとんどのアロマセラピーの生徒たちは何の香りか認識できません。生徒たちの嗅覚は香りの強さに圧倒されてしまうのです。幸いなことに、人間の脳はすばやく適応するので、慣れてくればすぐ香りがわかるようになります。
この記事は許可を得てクインエッセンス・ニューズレターから一部を翻訳したもので、英語原文の著作権はクインエッセンス・アロマセラピー社に属します。
written by Geoff Lyth, Copyright © Quinessence Aromatherapy Ltd
＜ご注意＞
アロマセラピーは、医療・治療行為ではありません。クインエッセンス・ニューズレターおよび翻訳文に記載される記事は、教育・研究目的のものです。精油などのご使用に際しては、自己責任に基づいて行われるようご注意ください。
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